福岡地方裁判所 昭和45年(ワ)1134号 判決 1973年9月11日
原告 松本登士雄
被告 国 外一名
訴訟代理人 原口酉男 外三名
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判<省略>
第二当事者の主張
(請求原因)
一 代執行
(一) 起業者建設大臣は昭和四三年四月一二日福岡県収用委員会に対し、筑後川改修工事のうち向島築提工事およびこれに伴う農業用水路付替工事、市道付替工事に関する土地収用裁決の申請をした。
(二) 福岡県収用委員会は昭和四三年六月一日右申請に対し別紙一<省略>記載の内容の土地収用裁決を行い、同月七日付43福収発第15号をもつて起業者および土地所有者らに裁決書を送達した。
(三) その後、起業者建設大臣は原告が収用期限までに履行しなかつたとの理由で、福岡県知事亀井光に対し物件の移転の代行および代執行を請求し、同知事は原告に対し、代執行令書をもつて次のような代執行をなすべき時期等の通知をした。
1 撤去する物件の表示
大川市大字向島字西新開一一一七番の二、三、一一一八番の三、四、地上の建物、立木、工作物および動産
2 代執行をなすべき時期
昭和四四年三月一〇日から同月二四日まで
3 執行責任者の職、氏名
九州地方建設局用地部長 佐伯 正夫
同 筑後川工事事務所長 伊賀上季明
4 代執行に要する費用の見積額
金五一五、九六一円
5 物件撤去の処置方法
原則として現地において所有者に引渡し、または、現地周辺の所有者指定の場所に集積する。
(四) 原告は当時大川市大字向島字西新開一一一七番の一、二、三、一一一八番の三、四、五にまたがつて建されていた木造二階建瓦葺居宅一階三九・五坪二階四坪を所有していたが、昭和四四年三月一〇日午前一〇時から前記佐伯正夫指揮のもとに開始された代執行によつて、同人らは代執行令書により撤去できる建物は別紙二図面<省略>(1) (2) 記載のとおりであるのに、右撤去物件の範囲を逸脱して居宅全部を解体し昭和四四年三月一四日代執行を終了した。<以下事実省略>
理由
一 請求原因第一項の(一)、(二)、(三)の1ないし5の事実、(四)のうち、原告が、当時、大川市大字向島字西新開一一一七番の一、二、三、一一一八番の三、四、五にまたがつて建築されていた木造二階建瓦葺居宅・一棟一階三九・五坪二階四坪を所有していたこと、昭和四四年三月一〇日午前一〇時から九州地方建設局用地部長佐伯正夫ら指揮のもとに開始された代執行によつて、右居宅全部を解体し、同月一四日代執行を終了したこと、以上の事実は当事者間に争いがない。
二 右によれば、本件撤去にかかる建物は収用された土地と収用されなかつた土地部分にまたがつて建築されていたところ、前記佐伯正夫らは本件建物全部を代執行により解体撤去したことになる。
三 よつて、本件代執行の適法性の有無について判断する。
収用された土地と収用されなかつた土地にまたがつて存在する一棟の建物に対して、収用された土地にかかる部分のみを切り取り撤去することが、残りの建物部分のみならず建物全体の効用を著しく損い、建築構造上も、残存建物を維持することが危険であり、これを維持するには多額の補強、補修費を要すると認められる場合には、建物全部を解体撤去しても、その代執行は適法であると解するのが相当である。
いま、これを本件についてみるに、被告主張の第(一)項1の事実については当事者間に争いがなく、<証拠省略>を総合すれば、被告主張の同項2の事実、および、残存建物を維持するためには倒壊防止のため梁や特別の支柱などを施し、これを新築する以上の補強、補修費を支出せねばならぬこと、以上の事実を認めることができる。
右認定に反する<証拠省略>は措信できず、他にこれをくつがえすに足る証拠はない。
よつて、本件建物撤去、土地明渡の代執行は適法と認めねばならない。
四 したがつて、本件代執行にもとづきなした九州地方建設局用地部長佐伯正夫、同局筑後川工事事務所長伊賀上季明らの建物全部の解体撤去行為が違法であることを前提とする原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当であるから棄却をまぬがれず、訴訟費用の負担について民訴法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 高石博良)